
ウォーレン・バフェット氏に投資を教えたとされているベンジャミン・グレアム氏という人が「正味流動資産」に注目した株式投資手法を提唱したのは、1949年のことです。
「ネットネット株投資」と呼ぶこともあります。
このネットネット株狙いの投資は現代でも有効で、日本の多くの個人投資家も採用しています。そこで、この長年支持されてきた伝統的な投資手法の理論を、詳しく、かつ平易に解説していきます。
しかしネットネット株投資は「少し面倒」という欠点もありますので、その点についてもみていきましょう。
ネットネット株投資の起源
グレアム氏(1894~1976)はアメリカの経済学者でありながら、ウォール・ストリートの最長老と呼ばれる著名な投資家でもありました。
バフェット氏は、グレアム氏がコロンビア大学で教鞭ととっていたときの教え子で、グレアム氏が唯一最高評価の成績をつけた学生でした。それでグレアム氏は「バフェット氏の師匠」とみなされているのです。
学者がつくった堅実さが特徴
グレアム氏の経歴を知ると、「経済学者なのになぜ投資家として名をはせることができたのか」という疑問がわくと思います。経済学者は理論をつくり、投資家はお金をつくるので、「異質」のイメージがあります。
この「経済学者がつくった投資手法」という性質こそが、正味流動資産に注目したネットネット株投資の特徴になっているのです。経済学者がつくっただけあって、ネットネット株投資はかなり堅実な投資手法なのです。
堅実なことはよいことなのですが、ただあまりに堅実すぎて投資の果実を得るのに時間がかかることがあります。その点については最後のほうで詳しくみていきます。
「3分の2以下で買え」とアドバイス
グレアム氏は1949年に発行した著書「賢明なる投資家(「THE INTELLIGENT INVESTOR」)」のなかでネットネット株投資について言及しています。
その内容をまとめると次のようになります。
・正味流動資産のみを考える
・つまり工場設備などのその他資産は考慮しない
・正味流動資産は「スリムにした資産」といえる
・正味流動資産の3分の2以下で買った(ので私は儲かった)
グレアム氏は個人投資家たちに、非常に具体的な手法を教えてくれています。特に「3分の2以下で買え」と数字を示している点は、株価を追うときにとても参考になります。
しかし、そもそも「正味流動資産」を理解していないとグレアム氏の教えを実行できません。
「正味流動資産」を理解する前の予備知識
正味流動資産を理解するには、貸借対照表の知識が必要になります。しかしここでは、会計が苦手な人でも理解できるように、話を単純化させて解説します。
貸借対照表は、左側に「総資産=流動資産+固定資産」を置き、右側に「負債+純資産」を置き左右が同じ額になるようにしたものです。
図で表すとこうなります。
ここに出ている単語になかで「流動資産」に注目してください。そうです「正味流動資産」から「正味」を外したのが「流動資産」です。
正味流動資産は「流動資産の一部」と覚えておいてください。
流動資産とは、1年以内に現金化できる資産のことで、具体的には「現金、預貯金、受取手形、有価証券、売掛金、商品、原材料、工場設備など」です。
現金化するのに1年以上かかる資産を固定資産といいます。さらに固定資産は、総資産から流動資産を差し引いたもの、ともいえます。
ここまで押さえておけば、正味流動資産を理解するのは簡単です。
「正味流動資産」とは
先ほど、以下のような貸借対照表を紹介しました。
この貸借対照表は「流動資産<負債」となっています。つまり流動資産(1年以内に現金化できる資産)をすべて売っても、負債が残ってしまう企業です。このような企業には「正味流動資産はない」と覚えておいてください。
つまりグレアム氏としては魅力がない企業であり、「ネットネット株ではない」銘柄です。
では正味流動資産がある企業の貸借対照表はどのようになっているかというと、こうです。
流動資産>負債となっていて、流動資産を売って負債を返済しても流動資産が残ります。
ここに正味流動資産を加えるとこうなります。
正味流動資産は流動資産の一部です。そして、流動資産から負債を差し引いたものが正味流動資産なのです。
ここから直感的に「負債を返済しても現金や預貯金など(流動資産)が余るなんて、業績がよさそうな会社だな」ということがわかると思います。
その直感を覚えておいてください。
なぜネットネット株投資は「長生き」しているのか
次に、なぜネットネット株投資が、グレアム氏が提唱した1949年以来、現代まで「長生き」できたのか考えてみます。
ポイントはグレアム氏の次の教えです。
正味流動資産の3分の2以下で買う
正味流動資産とは、流動資産から負債を差し引いて余った資産です。ということは極論すると、この企業を「適正な価格」で買収すれば、買収後すぐに清算しても「正味流動資産」分が利益になるわけです。
そしてグレアム氏は、正味流動資産が発生している企業の株を「正味流動資産の3分の2以下で買え」と言っています。「正味流動資産の3分の2以下」の金額が、グレアム氏にとっての「適正な価格」なのです。
企業の値段のことを時価総額といい、次の計算式で算出します。
時価総額=株価×発行済株式数
時価総額を支払えば、その会社の株式をすべて買うことができ、つまりその企業を買収できます。
ここでもう一度下の図を見てください。
もし時価総額(企業の値段)が正味流動資産と同額だったら、この企業を時価総額で買っても、負債を返済したら流動資産が残りません。もちろん固定資産は残りますが、固定資産は売りにくいので、グレアム氏にとっては魅力が薄いのです。
しかしもし、時価総額が正味流動資産の3分の2以下だったらどうでしょうか。
時価総額≦正味流動資産×2/3
となります。例えばこの企業の時価総額が正味流動資産×2/3と同額になったときに買収すれば、買収後すぐに清算することで「正味流動資産-正味流動資産×2/3=正味流動資産×1/3」の利益が得られるわけです。
時価総額は「株価×発行済株式数」なので、株価が値下がりして「時価総額≦正味流動資産×2/3」なったタイミングで株を買えば、グレアム氏の理論によれば「その株はかなりの高い確率で確実の上がる」ことになるわけです。
ネットネット株投資はだから面倒
いかがでしょうか、ネットネット株投資の理論を理解すると、すぐに「時価総額≦正味流動資産×2/3」銘柄を探したくなりたくなるのではないでしょうか。
しかし、ネットネット株投資は「堅実ゆえに少し面倒な投資手法」なのです。それは流動資産の性質にあります。
繰り返しになりますが、流動資産とは1年以内に現金化できる資産のことで、具体的には「現金、預貯金、受取手形、有価証券、売掛金、商品、原材料、工場設備など」です。
このうち、「現金、預貯金、受取手形、有価証券」は金額がすぐに判明しますが、「商品、原材料、工場設備」はもしかしたらすでに劣化してしまっていて、実際の金銭価値はかなり安くなっているかもしれません。
要するに「時価総額≦正味流動資産×2/3」を調べても、簡単には「正味流動資産の本当の価格」がわからないので、時価総額の算出に必要な株価も推定できないのです。
もうおわかりだと思います。ネットネット株投資を行うには、その企業の資産や貸借対照表をじっくり調べないとならないのです。だからネットネット株投資は「少し面倒」なのです。
おすすめの投資手法
ネットネット株投資は堅実な手法ですし、投資したい企業のことをよく調べる必要があるので、これから株式投資を始めようと考えている方や、株式投資を始めたばかりの方には「勉強」になると思います。
しかしネットネット株投資は、「時価総額≦正味流動資産×2/3」銘柄を見つけて、その株式を購入して、そして株価が値上がりするのを待たなければなりません。実はグレアム氏も、株価が上がるのを待ちきれず、自分で投資先企業の経営権を取得して企業価値を上げる取り組みをした、という逸話が残っています。
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